
全編流れるドラムの音楽も印象的だ。
アメリカのショービズ界を皮肉るようなセリフが満載なのもアカデミー賞受けが良かったかもしれない。
映画終盤、自由に空を飛ぶリーガン。
空を飛んで劇場入りしたリーガンの後を金を払えと追うタクシードライバーのシーンからこの映画は追い詰められ、壊れかけたリーガンの幻想が入り混じっていることが判明する。
映画冒頭から描かれる超能力はすべて単なる妄想なのだ。
リーガンは奇跡を起こすことにより、幻想を捨てて自分自身を取り戻すことに成功することで過去の自分と名声の呪縛から自由になる。
その変容は、バードマンのマスクそっくりな包帯の下から出てきた整形された自分の顔は今までとは全く変わってしまっていることも見事な比喩になっている。
バードマンと決別したリーガンは病院の窓からジャンプするが、娘サムはその病院の窓から上空を微笑みながら見上げる。
しかし、その上空にはリーガンの姿はないはずだ。
この映画はリーガンの幻想が入り混じっている程度のものではなく、彼の幻想そのものであり、サムの微笑みも幻想なのだ。
むしろ、冒頭のカーヴァーの一節を踏まえると、この映画自体彼の死ぬ間際、あるいは(死んだ直後の)回想そのものと考えるのが妥当だろう。
過去の自分から脱却できずにいながら懸命にもがき苦しむことによって、予期せぬ奇跡を起こして新たな自分を手に入れ自由を得た彼の心象は、その時肉体は滅んでいようとも、ラストのサムの表情に見事に反映されている。
And did you get what you wanted from this life, even so?
I did.
And what did you want?
To call myself beloved, to feel myself beloved on the earth.
たとえそれでも、君は思うのか、この人生における望みは果たしたと?
果たしたとも。
それで、君はいったい何を望んだのだ?
それは自らを愛されるものと呼ぶこと、そして自らをこの世界にあって愛されるものと感じること。
(Raymond Carver, Late Fragment)
アカデミー賞作品賞・監督賞・撮影賞・脚本賞の4部門受賞作品。
ちなみに、予告編で流されていた印象的な歌は、映画本編では使用されていない。
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