
ここまでの分厚いメイクだと微妙な表情はわかりづらいし、アンソニー・ホプキンスでなくてもよかったじゃないかとまで思えてしまう。
彼の演技を今一つ楽しめないのに対して、妻アルマ役のヘレン・ミレンは妻として、キャリア・ウーマンとして、また、一人の女性としての姿を微妙なグラデーションで表現していて惹きつけられる。
資金難により家を抵当に入れ、映倫により自由な表現に制約を受け、妻からは肥満による食事制限を言い渡され、さらに何とか撮影に辿り着けた「サイコ」では現場でトラブル続きとヒッチコック自身、極限にまで追い詰められてしまう。
「サイコ」はアメリカに実在した猟奇的殺人鬼エド・ゲインをモデルに書かれているが、追い詰められたヒッチコックが幻想の中でエド・ゲインと語り合う演出が秀逸だ。
これまでの製作映画では出演女優に惚れ込み浮名まで流してきた彼は、今回の撮影現場でも女優たちの言動の一つ一つを見張る一方で、ずっとヒッチコックを影から支え続けてきたアルマの知人ウィットとの浮気を疑う。
マザコン殺人鬼と言われていたエド・ゲインとのまるで友人同士であるかのような対話が交わされるのは、ヒッチコック自身、妻に全て世話をされ、女性を執拗に管理しようとすることからも彼もまたマザコンだったと示唆しているからに他ならない。
さまざまなエピソードは映画ファンには垂涎ものだが、同時に、さまざまな演出技法を用いて彼の本当の姿をあぶり出そうとする試みが「ヒッチコック」らしくもあり、映画として見事だ。
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