曲調のバラエティは広く、一曲一曲の作り込みの丁寧さは聞き手にも伝わってきます。
非常に聞きごたえのある曲群で構成されていて感涙モノです。
楽曲のバラエテイの多彩さとは裏腹に、そのテーマは「愛することと未来への希望」とシンプルに絞られていますが、言葉の選び方が見事で、ときどき、ハッとするフレーズが曲に使われていてドキリとします。

“人間なんてみんなバカさ”
”ルールを作ってみたいんだろう 歴史を変えてみたいんだろう”
”未来が来てもうれしくないのさ 君が一緒でなけりゃ” - 「君と一緒でなけりゃ」
「世界を変える」というのは、これまでも佐野元春の作品を考える上でのキーコンセプトの一つです。
利己的な統治者による愛のない支配を愚行と叫び、これまで繰り返された人と人とのつながりを考えずに世界を変えようとする行為を愚かだとする一方で、愛し合うということで世界を変えることの素晴らしさを説いています。
“風は光になって 私たちはずっと共にいる"
“君といつかこの世界を変えてみたい” - 「詩人の恋」
「クラウド アトラス」とのシンクロニシティ(共時性)
人間の歴史の中で愛と革命は、何世代にもわたり繰り返された人間の本質的な行動でもあります。
私は、最近見た映画「クラウド アトラス」のソンミのエピソードを思い出さずにいれませんでした。
19世紀のアメリカで奴隷解放運動に夫と共に参加したソンミは、22世紀にクローン人間として生まれ変わり、19世紀の夫の生まれ変わりの指導者と共にクローン人間の解放運動に立ちあがります。
"革命は静かに始まっているよ
残酷な運命
二人を分かつその日まで 私たちはずっと共にいる" - 「詩人の恋」
これには映画公開とアルバムリリースのタイミングの共時性を感じずにはいれません。
佐野元春とDAVID BOWIEのファンを長くやっていると何度となくこのような不思議な場面に遭遇して奇妙な感じがします。
愛する人との未来
ふわふわとした幻想的な恋愛ではなく、妙に現実感を伴う等身大の2人の関係を強調し、愛し合うこと、愛されることを歌うラブソングが多く、印象的です。
“愛されてるって すごく素敵だよ
愛されてるって もっと感じたいよ” - 「君と往く道」
佐野元春が未来への希望を語るとき、それは個人の未来ではなく、愛する人との二人の未来です。
愛する人の未来ことを謳っていても、それはその人を想う自分がいて初めて成り立つもので、愛する人の未来は自分の未来でもあります。
"おおらかな人生を夢見ている君 虹をつかむ日までもう少し” - 「虹をつかむ人」
"ほら見上げてごらん 冬の星空 あれはポーラスタア"
"二人の行方見守るように" - 「ポーラスタア」
これまでの人生が苦難続きであっても、これからの未来に希望の光を見出す曲に励まされます。
"打ち上げられた魚のように どうにかここまでたどりついた "
"この先へもっと" - 「La Vita e Bella」

* 世界は慈悲を待っている
* 虹をつかむ人
* ラ・ヴィータ・エ・ベラ
* 愛のためにできたこと
* ポーラスタア
* 君と往く道
* ビートニクス
* 君と一緒でなけりゃ
* 詩人の恋
* スーパー・ナチュラル・ウーマン
* 食事とベッド
* ZOOEY